【教員紹介】沈熙明(Ximing Shen)特任助教|KMD博士課程修了生が「Dementia Eyes」で拓く共感のデザイン

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今回のテーマは「【教員紹介】沈熙明(Ximing Shen)特任助教|KMD博士課程修了生が「Dementia Eyes」で拓く共感のデザイン」です。

KMD(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科)教員紹介シリーズの第17回では、KMDの博士課程を修了し、現在は特任助教として研究に取り組む沈熙明(Ximing Shen)特任助教を紹介します。

沈特任助教は、ユーザー中心の研究手法やヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)を専門とし、認知症の当事者が感じている世界を他者が疑似体験する「Dementia Eyes」などの研究に取り組んできました。経済学を学んだ後に企業で実務経験を積み、そこからKMDへ進学して研究者になったという経歴も特徴的です。非技術系のバックグラウンドからKMDを目指す受験生にとっても、参考になるキャリアのひとつといえるでしょう。


沈熙明特任助教はどのような研究者なのか

沈熙明特任助教の専門分野は、ユーザーを中心に考える研究アプローチとヒューマンコンピュータインタラクションです。英国マンチェスター大学で経済学の学士号を取得した後、スタートアップ企業や戦略コンサルティングの分野で実務経験を積みました。

その後、KMDへ進学し、博士課程まで研究を続け、2025年に博士号を取得しています。経済学から企業での実務を経てHCI分野の研究者へ進んだという経歴は、KMDの学際性を考える上でも興味深い例です。

以前紹介した佐藤千尋准教授もKMDで学んだ後に教員となった研究者ですが、沈特任助教もまた、自らKMDで研究生活を経験した上で教育・研究に携わっています。受験生にとっては、KMDでどのように研究を深め、その先に研究者としてのキャリアを築いていくことができるのかを考える材料になります。


Dementia Eyesで認知症の経験を疑似体験する

沈特任助教の博士論文で中心的なテーマとなったのが、「Dementia Eyes」です。これは、認知症の人が感じる知覚世界を、認知症ではない人が疑似的に体験するための身体性シミュレーションに関する研究です。

認知症について知識として学ぶことはできますが、実際に本人がどのように周囲を認識し、何に戸惑い、どのような不安を感じているのかを理解することは簡単ではありません。そこで、テクノロジーによる体験を通して、当事者の立場をより具体的に想像できるようにしようという考え方があります。

この研究で重要なのは、単に「認知症を体験できる装置」を作ることではありません。体験した人が、その経験をどのような社会的背景の中で理解するのかまで考えている点です。博士研究では、包摂的な身体性シミュレーションとともに、文脈化という考え方も重視されています。

認知症の状態を一つの固定された経験として表現してしまえば、かえって当事者への誤解につながる可能性もあります。そのため、疑似体験をどのように提示し、体験後に何を考えてもらうのかまで含めて検討することが必要になります。


身体性メディアを共感や理解へつなげる

Dementia Eyesのような研究は、KMDで進められている身体性メディアの研究とも接点があります。これまで紹介してきた南澤孝太教授のEmbodied Media Projectでは、身体的な経験を記録したり、伝えたり、拡張したりする研究が進められています。

沈特任助教の研究では、こうした身体的な体験を医療や福祉の課題に応用し、他者への理解や共感につなげようとしている点が特徴です。

たとえば、介護をする家族や医療・福祉の専門職が、認知症の人から見えている世界を疑似的に経験できれば、日常生活で起きる行動を違う角度から理解できる可能性があります。「なぜその行動をするのか分からない」という状態から、「このように感じているのかもしれない」と考えるきっかけを作ることができます。

ただし、疑似体験だけで当事者の経験を完全に理解できるわけではありません。その限界も含めて考えることが、ヘルスケア分野でテクノロジーを扱う際には重要です。技術によって共感を生み出せる可能性と、単純化してはいけない当事者の多様な経験の両方を見る必要があります。


国際的なHCI研究の場でも評価されている

沈特任助教は、HCI分野の主要な国際会議のひとつであるACM CHIにおいてBest Paper Awardを受賞するなど、国際的な研究活動にも取り組んでいます。また、UISTなどの国際会議でも研究成果を発表してきました。

HCIでは、単に新しいシステムを開発するだけではなく、人がその技術をどのように利用し、どのような経験を得るのかを検証することが重要になります。そのため、技術開発だけでなく、ユーザー調査、体験の評価、社会的な影響なども研究対象になります。

沈特任助教は、こうしたユーザー中心の研究手法を使いながら、新しい技術がヘルスケアやアートなどの領域でどのように活用できるのかを探っています。医療や福祉の課題に対して、工学だけでも社会科学だけでもない方法で取り組めることは、KMDならではの研究の進め方を考える上でも参考になります。


非技術系の経験を研究テーマにつなげる

沈特任助教の経歴は、KMDを目指す受験生にとってもう一つ重要な示唆があります。それは、大学までの専門分野と、大学院での研究分野が必ずしも同じである必要はないということです。

沈特任助教は経済学を学び、その後スタートアップ企業や戦略コンサルティングで働いた経験を持っています。そこからKMDでHCIや身体性シミュレーションを研究し、博士課程を修了しています。

もちろん、専門分野を変える場合には、必要な知識や研究方法を新たに学ぶ必要があります。しかし、それまでの経験が無意味になるわけではありません。企業でユーザーや事業について考えてきた経験が、人と技術の関係を研究する際に生かされることもあります。

受験生も研究計画や志望理由を考える際には、「自分は文系だから技術研究は難しい」「これまでの仕事と研究テーマが違う」と切り離して考えるのではなく、自分の経験からどのような問題意識が生まれたのかを整理するとよいでしょう。

特に医療、福祉、介護、ヘルスケア、アートなどの領域で、当事者の経験をテクノロジーによってどのように伝えられるかに関心がある方は、沈特任助教の研究との接点を考えやすいでしょう。


まとめ

沈熙明特任助教は、経済学を学んだ後、スタートアップ企業や戦略コンサルティングでの実務経験を経てKMDへ進学し、2025年に博士号を取得した研究者です。

博士研究では「Dementia Eyes」を通じて、認知症の当事者が経験する世界を身体性シミュレーションによって伝え、他者の理解や共感につなげる研究に取り組みました。また、ACM CHIをはじめとする国際的なHCI研究の場でも成果を発表しています。

KMDへの進学を検討している方で、ヘルスケアとテクノロジー、身体的な体験、HCI、共感や包摂性などに関心がある場合は、自分が「誰のどのような経験を、なぜ他者へ伝えたいのか」を考えてみてください。そこから必要な技術や研究方法を考えていくことで、研究計画や志望理由を具体化しやすくなります。また、異なる分野からKMDを目指す方にとっても、沈特任助教の歩みは、自分のこれまでの経験を新しい研究分野へつなげる方法を考える参考になるでしょう。


※本記事は記事作成時点の情報をもとに作成しています。入試制度、出願資格、提出書類、カリキュラム、教員の所属・役職・研究内容などは変更される場合があります。受験を検討している方は、必ず慶應義塾大学および慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の公式サイト、最新の入学試験要項をご確認ください。

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※この記事は専門家による監修のもと執筆されています。

この記事を監修した人

小杉樹彦(志樹舎 創業者)

小杉 樹彦(こすぎ・たつひこ)
志樹舎 創業者/博士(学術)
慶應義塾大学院修了後、2015年1月に院試専門オンライン予備校「志樹舎」を設立。 代表講師として10〜60代まで延べ5,000人以上の受験生を指導。 早慶・国公立をはじめとする難関大学院で合格率9割超の実績を持つ。 現在は大学院入試対策の専門家として、テレビ・新聞・雑誌など幅広いメディアで活動中。 ロングセラー『減点されない!勝論文』(エール出版社)ほか著書・論文多数。