
慶應大学院でAIを研究するなら?研究科の探し方
院試専門オンライン予備校「志樹舎」が運営する「慶應義塾大学大学院の院試対策ガイド」をご覧いただき、ありがとうございます。今回のテーマは「慶應大学院でAIを研究するなら?研究科の探し方」です。
人工知能、いわゆるAIへの関心から大学院進学を考える方は増えていますが、慶應義塾大学の大学院には複数の研究科があり、どの研究科でAI関連の研究に取り組めるのか分かりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
特に注意したいのは、「AIを研究したい」という希望だけでは、志望研究科を一つに絞れないことです。AIのアルゴリズムそのものを研究したいのか、生成AIを利用したサービスを開発したいのか、企業へのAI導入を研究したいのか、AIと社会・政策の関係を考えたいのかによって、適した研究環境は変わります。
この記事では、AIに関連する研究を検討するうえでの研究科の探し方と、研究テーマを具体化していく際の考え方を整理します。
AIという言葉が指す研究範囲は幅広い

ひとくちにAIといっても、その中身は多岐にわたります。画像認識や自然言語処理、機械学習などの技術そのものを発展させる研究もあれば、AIを特定の産業や社会課題にどう応用するかという研究、AIが社会に与える影響を政策的に考える研究、AIを使ったコンテンツやメディア表現を追求する研究など、切り口によって関わる研究科が変わってきます。
例えば、「生成AIを研究したい」という場合でも、生成モデルの性能向上を研究するのか、生成AIを利用した教育サービスを開発するのか、企業への生成AI導入によって業務がどのように変化するのかを研究するのか、著作権や倫理などの社会制度を研究するのかでは、研究テーマの性質が大きく異なります。
そのため、研究科を探す前に「AIそのものを研究したいのか」「AIを使って何かを研究したいのか」を分けて考えてみることが重要です。さらに、AIを利用するのであれば、「何を解決するためにAIを使いたいのか」まで具体化していくと、志望する研究科や教員を探しやすくなります。
AI技術そのものを深めたい場合
AIの基礎となるアルゴリズムやモデル、機械学習、画像認識、自然言語処理など、技術そのものを深く研究したい場合には、理工学系の研究科や情報科学に関連する研究領域を確認することが出発点になります。
このような研究では、AIを単にツールとして利用するだけではなく、「なぜこのモデルで精度が向上するのか」「新しい学習手法をどのように設計するのか」「既存手法にはどのような限界があるのか」といった技術的な問いを設定して研究を進めることになります。
そのため、数学、統計、アルゴリズム、プログラミング、計算機科学などの基礎知識が重要になる可能性があります。学部時代に情報系を専攻していなかった場合には、志望する研究室でどの程度の基礎知識が想定されているのかを早めに確認しておくことが大切です。
「AIエンジニアになりたい」というキャリア上の希望と、「AI技術そのものを研究したい」という研究上の希望も必ずしも同じではありません。大学院では何を新しく明らかにしたいのかという研究上の問いが必要になるため、技術を学びたいという段階から、研究したいテーマへ発展させていく必要があります。
AIを使ったプロダクトや体験を研究したい場合

AIそのもののアルゴリズムを開発するというより、AIを実際のプロダクトやサービスに組み込み、新しい体験や価値を生み出すことに関心がある場合には、メディアデザイン研究科(KMD)のように、技術とデザイン、コンテンツなどを横断して研究する環境も検討対象になります。
例えば、生成AIを使った新しいコミュニケーション体験、AIと映像・音楽を組み合わせたコンテンツ、AIを利用した教育サービス、人とAIが協働するためのインターフェースなど、技術を利用して新しい体験を設計する研究が考えられます。
この場合には、「AIを使ったものを作りたい」というだけではなく、そのプロダクトによって誰にどのような変化をもたらしたいのか、従来の方法と何が違うのか、制作したものをどのような方法で評価するのかまで考える必要があります。
AIを目的として捉えるのではなく、新しい価値や体験を実現するための技術として捉えることが、研究テーマを具体化する一つの考え方になります。
AIを組織や社会へ導入する仕組みを研究したい場合
AIを含む新しい技術が、企業や組織、社会システムにどのように組み込まれるのかに関心がある場合には、システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)のように、複雑なシステム全体を捉えるアプローチとの接点を考えることができます。
例えば、企業が生成AIを導入する場面を考えてみます。技術的には利用可能であっても、従業員が使わない、社内ルールが整っていない、情報管理上の問題がある、既存業務との役割分担が曖昧であるなど、実際の導入には多くの要素が関係します。
このような問題を、AIの性能だけではなく、人、組織、業務プロセス、制度、技術などが関係する一つのシステムとして捉えることができます。AI導入による組織変革や業務設計、人とAIの役割分担などに問題意識を持っている社会人であれば、自分の実務経験から研究テーマを考えることもできるでしょう。
AIそのものを開発するのではなく、「AIが社会や組織の中で機能するためには何が必要なのか」を研究したい場合には、このような視点から研究科を探してみる方法があります。
AIを社会・政策の視点から研究したい場合

AIの技術そのものよりも、AIが社会や政策に与える影響、AIをめぐる制度のあり方などに関心がある場合には、政策・メディア研究科を含め、テクノロジーと社会・政策を横断して研究できる環境を探す方法があります。
生成AIの普及によって、教育、雇用、著作権、情報流通、行政、企業活動など、さまざまな領域で新しい課題が生まれています。例えば、「大学教育で生成AIをどこまで利用すべきか」「AIによって仕事の役割はどのように変わるのか」「AIによって生成された情報を社会でどのように扱うのか」といった問いも研究テーマになり得ます。
この場合、プログラミングによって新しいAIモデルを作ることが研究の中心になるとは限りません。制度の分析、社会調査、政策研究など、自分の問いに適した研究方法を用いてAIと社会の関係を明らかにしていくことになります。
そのため、文系出身者や非エンジニアであっても、AIに関連する研究テーマを持つことは可能です。重要なのは、自分の問題意識に対して、どのような研究方法を用いるのかを明確にすることです。
「文系だからAI研究はできない」とは限らない
AI研究という言葉から、数学やプログラミングを専門的に学んできた人だけが対象だと考える方もいるかもしれません。しかし、AIに関連する研究すべてがAIモデルの開発を目的としているわけではありません。
例えば、企業における生成AIの活用、AIと教育、AIとマーケティング、AIと組織、AIと政策、AIとメディア表現など、AIを別の専門領域と組み合わせる研究も考えられます。この場合には、これまで自分が学んできた専門分野や実務経験が研究テーマを考える材料になることがあります。
一方で、AIモデルやアルゴリズムそのものを研究したい場合には、数学や統計、プログラミングなどの専門知識が必要になる可能性があります。自分が目指している研究に必要な知識と、現在持っている知識との差を確認し、必要であれば出願前から基礎学習を進めることが重要です。
「AIに興味があるから理系の大学院」と決めるのではなく、自分がAIの何を研究したいのかを先に決めることで、文系・理系という区分にとらわれず研究科を探しやすくなります。
研究科より先に教員を探す方法もある
AI関連の研究テーマでは、研究科の名称だけから志望先を探すと、自分に合った研究室を見落としてしまう可能性があります。AIは多くの分野で利用されているため、研究科をまたいで関連する研究を行っている教員が存在する可能性があるからです。
まず、自分が関心を持つキーワードをいくつか書き出してみましょう。例えば、「生成AI」「自然言語処理」「教育」「医療」「組織」「デザイン」「政策」などです。そのうえで、慶應義塾大学の各研究科の教員紹介や研究室のページを確認し、自分の関心に近い研究を行っている教員を探していきます。
教員を見つけたら、その教員が所属する研究科、研究プロジェクト、過去の論文、研究テーマなどを確認します。自分が研究したい内容と接点があれば、その研究科の入試制度やカリキュラムを調べるという順番で進めることもできます。
「AIを研究できる研究科はどこか」という探し方から、「自分が研究したいAIテーマを指導できる教員は誰か」という探し方に変えることで、志望先をより具体的に検討しやすくなります。
AI研究のテーマは「AI+対象+問い」で考える
研究計画書を作成する際に、「生成AIについて研究したい」「AIをビジネスに活用したい」という段階で止まってしまうと、研究テーマとしては広すぎる可能性があります。
そこで、「AI+対象+問い」という形で考えてみる方法があります。
例えば、「生成AI+大学教育+学生の学習行動はどう変化するのか」「生成AI+企業+導入が定着する組織にはどのような特徴があるのか」「画像生成AI+広告+消費者の評価はどのように変化するのか」といった形です。
さらに、対象となる人や組織、研究方法、比較対象などを具体化すると、研究計画へ発展させやすくなります。AIという大きなテーマから、自分が大学院で実際に調査・分析できる規模まで絞り込むことが重要です。
研究科を探す際の具体的な進め方
AI関連の研究科を探す際は、最初に自分の関心を「技術開発」「応用・プロダクト」「組織・システム」「社会・政策」などに大まかに整理してみるとよいでしょう。そのうえで、関連する研究科の教員や研究プロジェクトを確認します。
次に、気になる教員の研究テーマや論文、研究室の活動内容を調べます。研究科の紹介文だけでは自分のテーマとの接点が分からなくても、教員単位まで確認すると具体的な研究内容が見えてくることがあります。
さらに、募集要項や過去の入試情報を確認し、出願資格、提出書類、試験科目などを整理します。研究科によっては、数学や統計、プログラミングなどに関する専門知識が必要になる場合もあるため、自分に不足している知識があれば早い段階から準備を始めることが重要です。
説明会や研究科のイベントなどが開催されている場合には、自分の研究テーマとの接点や、入学後の研究環境を確認する機会として活用するとよいでしょう。教員への事前連絡についても研究科によって扱いが異なるため、公式サイトや募集要項の案内を確認したうえで対応してください。
研究計画書では「AIを使う理由」を明確にする
AI関連の研究計画を作成するときに注意したいのが、「なぜAIを使う必要があるのか」という点です。現在注目されている技術だからという理由だけでは、研究上の必要性を十分に説明できません。
まず解決したい問題があり、その問題に対してAIを利用することで従来とは異なる方法や成果が期待できる、という順番で研究テーマを考えることが重要です。
例えば、「生成AIを教育に使いたい」ではなく、「学生が文章作成の過程で適切なフィードバックを得にくいという課題に対して、生成AIを利用した支援方法を検討する」と整理すれば、研究したい問題とAIを利用する理由の関係が明確になります。
大学院入試では、流行している技術を扱っていることそのものよりも、自分が何を明らかにしたいのか、その問いに対してどのような研究方法を用いるのかを説明できることが重要です。
まとめ
慶應義塾大学の大学院でAIに関連する研究を考える場合、最初から一つの研究科だけに絞る必要はありません。AI技術そのものを研究するのか、AIを使ったプロダクトやサービスを作るのか、AIを組織や社会システムへ導入する方法を研究するのか、AIと政策・社会の関係を考えるのかによって、検討する研究科や教員は変わります。
まずは「AIを研究したい」という大きな関心を、「AIの何を、誰・何を対象として、どのような問いから研究したいのか」という形まで具体化してみましょう。そのうえで、研究科の名称だけではなく、教員の研究内容、研究プロジェクト、カリキュラム、入試制度まで確認していくことが、自分の研究テーマに合った大学院を見つけるための重要なステップになります。
※本記事は記事作成時点の情報をもとに作成しています。入試制度、出願資格、提出書類、試験内容、カリキュラム、教員情報などは変更される場合があります。受験を検討している方は、必ず慶應義塾大学および対象研究科の公式サイト、最新の入学試験要項をご確認ください。
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※この記事は専門家による監修のもと執筆されています。
この記事を監修した人
小杉 樹彦(こすぎ・たつひこ)
志樹舎 創業者/博士(学術)
慶應義塾大学院修了後、2015年1月に院試専門オンライン予備校「志樹舎」を設立。
代表講師として10〜60代まで延べ5,000人以上の受験生を指導。
早慶・国公立をはじめとする難関大学院で合格率9割超の実績を持つ。
現在は大学院入試対策の専門家として、テレビ・新聞・雑誌など幅広いメディアで活動中。
ロングセラー『減点されない!勝論文』(エール出版社)ほか著書・論文多数。


