慶應大学院で起業・スタートアップを研究する研究科の探し方

慶應大学院で起業・スタートアップを研究するなら?

院試専門オンライン予備校「志樹舎」が運営する「慶應義塾大学大学院の院試対策ガイド」をご覧いただき、ありがとうございます。今回のテーマは「慶應大学院で起業・スタートアップを研究するなら?」です。

自分で事業を立ち上げたい、あるいは起業やスタートアップという現象そのものを学術的に研究したいという関心から、大学院進学を考える方もいます。慶應義塾大学の大学院には、経営、テクノロジー、デザイン、政策、社会課題など、起業やスタートアップと接点を持つ研究領域があります。

ただし、「将来起業したい」という目的だけでは、志望研究科を決めることは難しいでしょう。起業家の意思決定や事業創造を経営学として研究したいのか、新しいプロダクトを開発して事業化したいのか、社会課題を解決する事業を考えたいのかによって、大学院での学び方は変わります。

この記事では、起業・スタートアップというテーマから慶應大学院を検討する際に、どのような視点で研究科や研究テーマを探せばよいのかを整理します。

起業への関わり方によって大学院での学び方が変わる

慶應大学院で起業やスタートアップについて考えるイメージ

起業やスタートアップというテーマには、複数の研究アプローチがあります。起業家や企業の行動を研究対象として分析する方法もあれば、自分自身が新しいサービスやプロダクトを作り、その社会実装を考える方法もあります。

例えば、「スタートアップの成長」をテーマにした場合でも、資金調達や組織形成、経営者の意思決定などを分析するのであれば、経営学との接点が強くなります。一方、新しいテクノロジーを利用したプロダクトを制作し、その事業化まで検討するのであれば、技術やデザインを含めた研究環境との接点が強くなります。

また、地域、教育、医療、環境などの社会課題を解決するための事業を考えるのであれば、政策や社会システムについての理解も必要になるでしょう。

まずは「起業したい」という希望を、「大学院で何を明らかにしたいのか」「どのようなものを作りたいのか」「どのような社会課題を解決したいのか」という問いへ変えていくことが、研究科選びの出発点になります。

経営理論として起業を探究したい場合

起業や新規事業の創造プロセスを、経営学の視点から体系的に考えたい場合には、経営管理研究科(KBS)を含む経営系の研究環境を検討する方法があります。

起業には、事業アイデアだけでなく、顧客や市場の理解、競争戦略、マーケティング、組織づくり、資金、事業成長など、さまざまな経営課題が関係します。スタートアップが成長する過程で経営者がどのような判断を行うのかという問題も、経営研究と深く関係します。

例えば、「スタートアップ企業は成長段階によって組織をどのように変化させるのか」「新規事業の意思決定にはどのような要因が影響するのか」「既存企業における新規事業はなぜ途中で停滞するのか」といった問いを考えることができます。

KBSではケースメソッドを通じ、具体的な経営課題について自分自身で意思決定を考え、他の学生と議論する学びがあります。自分で事業を始めるためのノウハウだけを求めるのではなく、経営者や事業責任者として必要となる考え方を体系的に学びたい場合には、カリキュラムや教員の専門領域を確認してみるとよいでしょう。

技術やものづくりを起点に事業化を考えたい場合

技術やプロダクトを起点にスタートアップを考えるイメージ

新しい技術やプロダクトのアイデアを形にしながら、その延長線上で事業化の可能性を考えたい場合には、メディアデザイン研究科(KMD)のように、技術、デザイン、コンテンツ、ビジネスなどを横断して研究する環境も検討対象になります。

例えば、AIを利用した新しいサービス、VR・ARを利用した体験、教育分野のデジタルサービス、新しいコミュニケーションツールなどを考えている場合、技術的に実現可能かという視点だけでなく、誰が利用するのか、どのような価値を提供するのか、どのように社会へ届けるのかという視点も必要です。

このような研究では、アイデアだけを提示するのではなく、実際にプロトタイプを制作し、ユーザーから反応を得ながら改善していくといった進め方も考えられます。

そのため、「経営を勉強してから起業したい」というよりも、「自分が生み出したいプロダクトや体験があり、それを社会へ実装する方法まで考えたい」という人は、技術やデザインとビジネスを横断できる研究環境を確認してみるとよいでしょう。

社会課題の解決を起点に事業を考えたい場合

社会課題の解決を目的としたソーシャルビジネスやスタートアップに関心がある場合には、政策・メディア研究科を含め、社会課題を幅広い角度から研究できる環境も検討できます。

例えば、地域の人口減少、教育格差、環境問題、福祉、医療、働き方などの問題について、行政だけに解決を求めるのではなく、事業として持続可能な仕組みを作るという考え方があります。

この場合には、ビジネスモデルを考えるだけではなく、そもそも社会の中でどのような問題が起きているのか、その原因は何か、誰が影響を受けているのかを研究することも重要になります。

自分が解決したい社会課題を起点として研究テーマを設定し、その延長線上に事業という解決方法を置くのであれば、政策、社会、テクノロジーなどを横断して研究できる環境を探すことが一つの方法になります。

複雑な仕組みそのものを変えたい場合

社会システムとスタートアップの関係を考えるイメージ

社会課題を解決するスタートアップの中には、一つの商品やサービスを提供するだけでは問題を解決できないものもあります。行政、企業、利用者、地域社会、既存制度など、多くの関係者が存在するためです。

例えば、地域交通の問題を解決するサービスを考える場合、便利なアプリを作るだけでは十分ではないかもしれません。自治体、交通事業者、地域住民、料金体系、法制度、人口構造など、複数の要素を考える必要があります。

このような複雑な問題をシステム全体として捉え、新しい仕組みを設計することに関心がある場合には、システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)の研究アプローチとの接点を探すこともできます。

起業そのものを研究するというより、「新しい事業を通じて、既存の社会システムをどのように変えるのか」という問題意識を持っている場合には、事業単体ではなく周囲のシステムまで研究対象として考えてみるとよいでしょう。

「起業したい」と「起業を研究したい」は分けて考える

大学院進学を考えるうえで、特に整理しておきたいのが「自分が起業したい」という目的と、「起業という現象を研究したい」という目的の違いです。

大学院は、事業の立ち上げ方だけを教えてもらう場所ではありません。研究として起業を扱うのであれば、先行研究を調べ、問いを設定し、一定の方法によって調査や分析を行い、そこから新しい知見を導き出す必要があります。

例えば、「成功するスタートアップについて研究したい」というテーマでは範囲が広すぎます。「創業初期のスタートアップにおける採用方法と組織形成にはどのような関係があるのか」など、対象と問いを具体化する必要があります。

一方で、自分自身が新しいサービスを作り、その実践過程を研究と結びつける方向も考えられます。その場合にも、単に事業を立ち上げるだけではなく、その実践を通じて何を検証し、何を明らかにするのかという研究上の目的が必要になります。

大学院在学中に起業したい場合に確認すること

大学院へ進学しながら実際に起業することを考えている場合には、研究内容だけではなく、大学院生活との両立も確認しておく必要があります。

授業、研究、論文執筆などには一定の時間が必要です。チームで取り組む授業や研究プロジェクトがあれば、自分の事業だけを優先することは難しい場合もあります。

そのため、在学中の起業を考える場合には、カリキュラム、研究活動、授業外で必要となる時間なども確認し、「大学院での研究」と「事業活動」をどのように両立するのかを事前に考えておくことが重要です。

また、大学や研究科が提供する起業支援、イベント、研究成果の社会実装に関する制度なども確認してみるとよいでしょう。ただし、利用できる制度や支援内容は変更される可能性があるため、出願時点の公式情報を確認してください。

社会人は実務経験を研究テーマに変換する

すでに社会人として働いている人の場合、これまでの実務経験は起業・スタートアップ研究のテーマを考える材料になります。

例えば、会社で新規事業を担当したものの事業化まで進まなかった経験、社内提案が意思決定の途中で止まった経験、新サービスを立ち上げたものの顧客獲得に苦労した経験などから、研究上の問いを見つけることができます。

重要なのは、自分自身の成功談や失敗談を書くことではありません。「なぜその問題が起きたのか」「他の企業でも同じ現象が起きるのか」「既存研究ではどこまで明らかになっているのか」と問いを広げることです。

実務で感じた疑問を学術的な問いへ変換できれば、社会人としての経験と大学院での研究をつなげやすくなります。

起業研究は成功事例だけを見るとは限らない

起業・スタートアップというテーマでは、成功企業や急成長した企業に注目しがちですが、研究対象は成功事例だけではありません。

新規事業が途中で撤退する理由、創業チーム内で意見の対立が生じる過程、顧客獲得に失敗する要因、事業モデルを変更する意思決定なども研究対象になり得ます。

むしろ、成功した企業だけを分析すると、「成功したからこの特徴があったのか」「その特徴があったから成功したのか」を区別することが難しい場合もあります。成功例と失敗例を比較したり、事業の変化を継続的に追ったりすることで、より具体的な問いを立てられる可能性があります。

「成功する方法を知りたい」という関心から一歩進み、起業のどのプロセスに関心があるのかを整理することが、研究テーマを考えるうえで重要です。

研究科より教員から探す方法もある

起業やスタートアップは複数の学問領域と関係するため、研究科名だけで志望先を探すと、自分のテーマに近い教員を見落としてしまうことがあります。

例えば、「アントレプレナーシップ」「新規事業」「イノベーション」「組織」「ベンチャー」「ソーシャルビジネス」「事業開発」など、自分の関心に近いキーワードから教員の研究内容を確認してみる方法があります。

気になる教員を見つけたら、その教員の論文や研究プロジェクト、過去の研究テーマなどを調べ、自分の問題意識との接点を確認します。そのうえで所属研究科やカリキュラム、入試制度を調べると、研究テーマから逆算して志望先を考えやすくなります。

起業支援が充実しているかという点だけでなく、自分が研究したいテーマを専門的に指導できる教員がいるかどうかを確認することが重要です。

研究計画書では「事業計画書」にしないことが重要

起業をテーマに大学院を受験する場合、研究計画書が事業計画書のようになってしまうことがあります。「このサービスを作りたい」「市場規模はこれくらいある」「この方法で収益化する」といった内容だけでは、大学院で行う研究としての問いが十分に示されない可能性があります。

研究計画書では、自分がどのような現象に問題意識を持っているのか、既存の研究では何が明らかになっているのか、そのうえで自分は何を明らかにしたいのかを整理する必要があります。

例えば、「地方で教育系スタートアップを立ち上げたい」という事業アイデアから、「地方における教育サービスの導入を阻害する要因は何か」といった研究上の問いへ発展させることができます。

実際に事業化を目指している場合でも、「事業として何をしたいか」と「研究として何を明らかにしたいか」を分けて考えることで、研究計画を組み立てやすくなります。

研究科選びで確認したいポイント

起業・スタートアップに関連する研究科を探す際は、まず自分が「経営を学びたい」「プロダクトを作りたい」「社会課題を解決したい」「複雑な仕組みを変えたい」のどこに近いのかを整理してみるとよいでしょう。

そのうえで、各研究科の教員の専門分野、研究プロジェクト、カリキュラムなどを確認します。在学中に事業化も考えているのであれば、研究成果を社会へつなげる機会や起業支援に関する最新情報も確認しておきましょう。

また、出願資格、選考方法、提出書類、実務経験に関する条件などは研究科や入試区分によって異なります。特に社会人向けのプログラムを検討する場合には、自分の職歴が出願条件を満たしているかを募集要項で確認することが重要です。

説明会などに参加する際には、「起業できますか」という質問だけではなく、「起業や新規事業を研究している教員はいるか」「実践的なプロジェクトと研究をどのように両立しているか」「学生はどのようなテーマで研究しているか」など、大学院での研究に結びつく質問をすると、入学後のイメージを持ちやすくなります。

まとめ

慶應義塾大学の大学院で起業・スタートアップに関連する研究を考える場合、経営理論として事業創造を研究する方向、技術やプロダクトを起点として事業化を考える方向、社会課題の解決を目的とする方向、複雑な社会システムそのものを変える方向など、複数のアプローチがあります。

まずは「起業したい」という希望から一歩進み、「起業の何を研究したいのか」「どのような価値を生み出したいのか」「どのような問題を解決したいのか」を具体化してみましょう。そのうえで、研究科名だけではなく、教員の専門分野や研究プロジェクト、カリキュラム、入試制度などを確認することが重要です。

また、自分自身で事業を立ち上げたい場合でも、大学院では事業計画と研究計画を区別して考える必要があります。実務や事業への関心を研究上の問いへ変換し、自分が大学院で何を明らかにしたいのかを整理することが、研究科選びと院試準備の両方につながります。


※本記事は記事作成時点の情報をもとに作成しています。入試制度、出願資格、提出書類、試験内容、カリキュラム、教員情報などは変更される場合があります。受験を検討している方は、必ず慶應義塾大学および対象研究科の公式サイト、最新の入学試験要項をご確認ください。

志樹舎 では、大学院入試の各種対策に特化した専門性の高いサポートを行っています。
院試受験でお困りの方は、 無料相談 にお気軽にお申し込みください。


※この記事は専門家による監修のもと執筆されています。

この記事を監修した人

小杉樹彦(志樹舎 創業者)

小杉 樹彦(こすぎ・たつひこ)
志樹舎 創業者/博士(学術)
慶應義塾大学院修了後、2015年1月に院試専門オンライン予備校「志樹舎」を設立。 代表講師として10〜60代まで延べ5,000人以上の受験生を指導。 早慶・国公立をはじめとする難関大学院で合格率9割超の実績を持つ。 現在は大学院入試対策の専門家として、テレビ・新聞・雑誌など幅広いメディアで活動中。 ロングセラー『減点されない!勝論文』(エール出版社)ほか著書・論文多数。