
- 1. 医療・ヘルスケア研究にもいくつかの切り口がある
- 2. 医学そのものを専門的に探究したい場合
- 3. 医療政策を研究したい場合
- 4. 医療経営・ヘルスケアマネジメントを研究したい場合
- 5. デジタルヘルスを研究するという方向性
- 6. AIと医療・ヘルスケアを研究する
- 7. ウェアラブル端末と健康データを研究する
- 8. 健康行動・予防という視点から研究する
- 9. 高齢化・介護を研究テーマにする
- 10. 医療サービスをシステムとして考える
- 11. 新しいヘルスケアサービスを設計したい場合
- 12. 医療・ヘルスケアでは研究倫理も重要になる
- 13. 医療データを使いたい場合は入手可能性を確認する
- 14. 社会人は実務経験を研究上の問いに変える
- 15. 研究テーマは「対象者+課題+アプローチ」で考える
- 16. 研究科より先に教員を探す方法もある
- 17. 研究計画書では「医療を良くしたい」から一歩進める
- 18. 入試準備では出願資格を早めに確認する
- 19. まとめ
慶應大学院で医療・ヘルスケアを研究するなら?
院試専門オンライン予備校「志樹舎」が運営する「慶應義塾大学大学院の院試対策ガイド」をご覧いただき、ありがとうございます。今回のテーマは「慶應大学院で医療・ヘルスケアを研究するなら?」です。
医療や健康に関わる課題に関心を持ち、大学院で本格的に研究したいと考える方もいるのではないでしょうか。医療・ヘルスケアという分野は非常に幅広く、病気の原因や治療法を探究する医学だけでなく、医療政策、病院経営、予防、健康行動、デジタルヘルス、AI、医療サービスの設計など、さまざまな研究領域があります。
そのため、「医療を研究したい」という言葉だけでは、志望する研究科を決めることは難しいでしょう。疾患や治療について研究したいのか、医療制度を研究したいのか、病院やヘルスケア企業の経営に関心があるのか、テクノロジーを利用して健康を支援したいのかによって、適した研究環境は異なります。
この記事では、慶應大学院で医療・ヘルスケアに関連する研究を考える際に、どのような視点から研究科や教員を探せばよいのかを整理します。
医療・ヘルスケア研究にもいくつかの切り口がある

医療・ヘルスケア研究には、大きく分けても複数のアプローチがあります。病気のメカニズムや診断・治療などを医学的に研究する方向もあれば、医療制度や医療政策、病院経営などを研究する方向もあります。
また、健康管理アプリやウェアラブル端末、AIなどの技術を利用して人々の健康を支援する研究や、人が健康のための行動をどのように選択するのかを心理・行動の面から研究することもできます。
例えば、「糖尿病に関心がある」という場合でも、疾患のメカニズムを研究するのか、患者の生活習慣を研究するのか、健康管理アプリによる行動変容を研究するのか、医療費や政策の観点から研究するのかによって研究領域は変わります。
まずは、自分が医療・ヘルスケアの「何を変えたい、あるいは明らかにしたいのか」を具体化することが、研究科選びの出発点になります。
医学そのものを専門的に探究したい場合
疾患の原因やメカニズム、診断、治療など、医学そのものを専門的に探究したい場合には、医学系の研究環境が中心的な候補になります。
例えば、特定の疾患が発症する仕組み、新しい診断方法、治療法など、研究テーマは多岐にわたります。また、基礎研究だけでなく、臨床現場と接点を持つ研究も考えられます。
医学分野では研究領域によって必要となる専門知識や研究環境が大きく異なります。そのため、「医療に興味がある」という段階から、どの疾患、どの医学領域、どの研究手法に関心があるのかを具体化していく必要があります。
また、医学系の大学院では課程や専攻、入試区分等によって出願資格や必要となる経歴が異なる可能性があります。自分の学部での専攻や資格、これまでの研究経験などを踏まえ、志望する課程の最新の募集要項を早めに確認することが重要です。
医療政策を研究したい場合
医療そのものではなく、「どのような医療制度を作るべきか」という問題に関心がある場合には、医療政策という視点があります。
例えば、地域による医療提供体制の違い、医療費、医療従事者の配置、予防医療など、医療制度には多くの研究課題があります。
「医療サービスを必要とする人へどのように届けるのか」「限られた医療資源をどのように配分するのか」といった問いも考えられます。
こうしたテーマでは、医学的な知識だけではなく、政策、経済、統計、社会制度などの知識が関係する可能性があります。医療を患者と医療従事者だけの関係として捉えるのではなく、社会全体の仕組みとして分析したい人にとって重要な研究領域です。
医療経営・ヘルスケアマネジメントを研究したい場合

病院や医療機関、ヘルスケアサービスなどの運営やマネジメントに関心がある場合には、健康マネジメント研究科など、健康とマネジメントに接点を持つ研究環境を検討する方法があります。
医療機関も組織である以上、人材、財務、業務プロセス、サービス品質など、さまざまな経営上の課題があります。一方、一般企業と異なり、患者の生命や健康に関わるという医療特有の性質もあります。
例えば、「医療サービスの質と業務効率をどのように両立するのか」「医療従事者が働き続けやすい組織にはどのような特徴があるのか」「病院における業務改善は患者の体験にどのような影響を与えるのか」といった研究テーマが考えられます。
医療従事者だけでなく、医療機関の運営やヘルスケア事業などに関わってきた社会人にとっても、実務経験から研究上の問いを考えられる領域です。
デジタルヘルスを研究するという方向性
スマートフォンやウェアラブル端末などの普及によって、医療機関以外の場所でも健康に関するデータを取得できるようになっています。こうしたテクノロジーを利用した健康支援も、研究テーマとして考えられます。
例えば、健康管理アプリによって運動習慣は変化するのか、ウェアラブル端末によるフィードバックは健康行動にどのような影響を与えるのか、オンラインによる健康支援にはどのような利点や課題があるのかといった問いです。
この方向では、医療・健康に関する知識だけでなく、情報技術、デザイン、心理、行動科学など、複数の分野が関係します。
新しいアプリやサービスを作ること自体を目的とするのではなく、「誰のどのような健康課題を解決するのか」「導入によって何が変化するのか」「その変化をどのように検証するのか」まで考えることが重要です。
AIと医療・ヘルスケアを研究する
AIの発展によって、医療・ヘルスケア分野でもさまざまな研究テーマを考えることができます。
例えば、医療画像や各種データの分析を支援する技術、健康状態に応じて情報を提供するシステム、医療従事者の業務を支援する仕組みなどです。
一方、医療にAIを利用する場合には、精度だけを考えればよいわけではありません。医療従事者が結果をどのように理解するのか、患者がAIによる情報をどのように受け取るのか、データをどのように扱うのかなど、技術以外の問題も関係します。
そのため、「医療AIを研究したい」という大きなテーマから、「誰が、どの場面でAIを利用し、それによってどのような課題を解決したいのか」を具体化する必要があります。
ウェアラブル端末と健康データを研究する
スマートウォッチなどのウェアラブル端末によって、日常生活の中で活動量などのデータを記録することも身近になっています。
こうしたデータを活用することで、病気になってから治療するだけでなく、日常生活の中で健康状態を把握し、予防につなげるという考え方もあります。
例えば、「活動量を可視化することで運動習慣は変化するのか」「ウェアラブル端末からの通知は利用者の健康行動にどのような影響を与えるのか」といった問いを考えることができます。
ただし、健康に関するデータは慎重に扱う必要があります。どのようなデータを取得し、どのように管理・分析するのかという点まで含めて研究計画を考えることが重要です。
健康行動・予防という視点から研究する

医療・ヘルスケア研究では、病気になった後の治療だけではなく、病気を予防するために人々がどのような行動を取るのかを研究する方向もあります。
例えば、健康診断を受ける人と受けない人にはどのような違いがあるのか、運動を始めても継続できる人とできない人にはどのような違いがあるのか、健康情報の伝え方によって行動は変化するのかといった問いです。
人は、健康に良いと分かっている行動を必ず実行するとは限りません。そのため、心理学や行動科学などの知見を活用しながら、人の意思決定や行動変容を研究することもできます。
このような研究では、アンケート、インタビュー、実験、行動データなど、研究目的に応じた方法を検討する必要があります。
高齢化・介護を研究テーマにする
医療・ヘルスケアを考えるうえで、高齢化や介護も重要なテーマです。高齢者本人の健康だけでなく、家族、医療機関、介護サービス、地域社会など、多くの関係者が関わります。
例えば、高齢者の健康維持、介護予防、地域での生活支援、介護サービスの提供体制、介護に関わる人材など、さまざまな研究テーマが考えられます。
また、センサーや見守りシステムなどのテクノロジーを利用して、高齢者の生活を支援する研究も考えられます。
この場合にも、技術を導入することだけを目的にするのではなく、利用する高齢者や家族、支援者にとってどのような価値があるのか、実際の生活の中で継続して利用できるのかまで考えることが重要です。
医療サービスをシステムとして考える
医療・ヘルスケアの課題は、一つの病院や一つの技術だけでは解決できないことがあります。患者、医療従事者、医療機関、行政、企業など、多くの関係者が関わっているためです。
こうした複雑な問題をシステム全体として捉えたい場合には、システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)のように、システム思考を重視する研究環境との接点も考えられます。
例えば、地域医療を考える場合、一つの病院の業務改善だけでなく、診療所、病院、介護施設、行政、住民などの関係まで含めて考える必要があります。
「どのサービスを改善するか」だけではなく、「関係者同士がどのようにつながれば、より持続可能な医療・ヘルスケアの仕組みになるのか」という視点から研究することもできます。
新しいヘルスケアサービスを設計したい場合
既存の医療制度やサービスを分析するだけでなく、新しいヘルスケアサービスそのものを設計したいと考える人もいるでしょう。
例えば、日常生活の中で健康行動を支援するアプリ、患者と医療従事者のコミュニケーションを支援するサービス、遠隔で健康状態を確認する仕組みなどが考えられます。
こうしたテーマでは、メディアデザイン研究科(KMD)など、テクノロジーやデザイン、ユーザー体験と接点を持つ研究環境も検討対象になり得ます。
サービスを制作する場合には、「便利なサービスを作る」だけではなく、現在の仕組みにはどのような課題があり、新しいサービスによって利用者の行動や体験がどのように変わるのかを検証する必要があります。
医療・ヘルスケアでは研究倫理も重要になる
医療・ヘルスケア研究では、人の健康や生活に関する情報を扱う可能性があります。そのため、研究内容によっては、研究倫理や個人情報の取り扱いについて十分に検討する必要があります。
例えば、患者や利用者へのインタビュー、健康データの分析、人を対象とする実験などを行う場合には、研究を実施する前に必要な倫理上の手続きが生じることがあります。
「研究に必要だからデータを集める」というだけではなく、どのデータが本当に必要なのか、研究参加者へどのように説明するのか、取得したデータをどのように管理するのかといった点まで考えることが重要です。
研究計画を考える段階から、研究対象者の安全やプライバシーにも配慮し、実現可能な研究方法を検討しておきましょう。
医療データを使いたい場合は入手可能性を確認する
医療・ヘルスケア研究では、医療データを利用したいと考える方もいます。しかし、医療機関が保有するデータを、大学院生が自由に利用できるとは限りません。
そのため、「患者データを分析したい」という研究計画を立てる場合には、そのデータをどのように入手するのか、研究期間内に利用可能なのかを確認する必要があります。
研究テーマによっては、公開されている統計データや既存の調査データ、アンケートなど、別の方法で研究上の問いを検証できる場合もあります。
研究テーマの魅力だけでなく、「必要なデータを実際に集められるか」という実現可能性まで考えることが、研究計画では重要です。
社会人は実務経験を研究上の問いに変える
医療機関、介護、製薬、保険、ヘルスケアサービスなどに関わってきた社会人の場合には、実務の中で感じた疑問を研究テーマの出発点にすることができます。
例えば、「新しいシステムを導入しても医療現場で十分に利用されない」「健康サービスを提供しても利用を継続する人が少ない」「医療従事者の業務負担が大きい」といった経験です。
ただし、大学院の研究では、自社や勤務先の問題を解決することだけを目的にするのではなく、その経験から生まれた疑問を、より一般的な研究上の問いへ変換する必要があります。
例えば、「自社の健康アプリの継続率を改善したい」という課題から、「デジタルヘルスサービスにおけるフィードバックの方法は利用者の継続行動にどのような影響を与えるのか」といった問いへ発展させることができます。
研究テーマは「対象者+課題+アプローチ」で考える
医療・ヘルスケアは非常に広い分野であるため、研究テーマを考える際には、「対象者+課題+アプローチ」という形で整理すると具体化しやすくなります。
例えば、「高齢者+運動習慣+ウェアラブル端末」「医療従事者+業務負担+システム設計」「生活習慣病のリスクを持つ人+健康行動+行動科学」といった形です。
さらに、研究対象となる地域や組織、利用するデータ、調査方法などを具体化すると、研究計画としての実現可能性を検討しやすくなります。
「医療を良くしたい」という大きな問題意識から、誰のどのような課題を、どのような方法で明らかにするのかまで絞り込むことが重要です。
研究科より先に教員を探す方法もある
医療・ヘルスケアは複数の研究科にまたがるテーマです。そのため、「医療を研究できる研究科はどこか」という探し方だけでは、自分に合った研究環境を見つけにくい場合があります。
まず、「医療政策」「医療経営」「デジタルヘルス」「健康行動」「予防」「高齢化」「AI」「ウェアラブル」「地域医療」など、自分の関心を具体的なキーワードに分けてみましょう。
そのうえで各研究科の教員紹介や研究プロジェクトを確認し、自分の問題意識と接点を持つ教員を探します。気になる教員が見つかったら、研究テーマ、論文、研究プロジェクト、担当科目などを確認すると、入学後の研究をイメージしやすくなります。
研究科の名称だけで決めるのではなく、「自分が研究したい医療・ヘルスケアの課題を指導できる教員がいるか」という視点から志望先を検討することが重要です。
研究計画書では「医療を良くしたい」から一歩進める
医療・ヘルスケアを研究したい人は、「患者の負担を減らしたい」「健康な人を増やしたい」「医療現場を改善したい」といった強い問題意識を持っていることがあります。こうした問題意識は研究の重要な出発点です。
一方、研究計画書では、理想だけではなく、具体的な研究上の問いへ変換する必要があります。
例えば、「高齢者の健康を支援したい」という目的から、「高齢者に対する活動量の可視化は、日常的な運動継続にどのような影響を与えるのか」といった問いへ具体化することができます。
そのうえで、先行研究では何が明らかになっているのか、何が十分に分かっていないのかを確認し、自分の研究がどこに位置づけられるのかを整理します。
医療・ヘルスケア分野では、研究対象者、データの入手可能性、研究倫理なども含めて計画を立てる必要があるため、研究方法まで早い段階から検討しておくことが大切です。
入試準備では出願資格を早めに確認する
医療・ヘルスケアに関連する研究ができる可能性がある研究科でも、入試制度や出願資格、求められる専門知識は異なります。特に医学系の課程を検討する場合には、志望する課程や入試区分の出願資格を早い段階で確認してください。
一方、医療政策、健康マネジメント、デジタルヘルス、システム設計などを研究する場合には、医学部出身者だけでなく、異なる専門分野から研究テーマへアプローチできる可能性もあります。
重要なのは、「医療を研究したいから医学系の大学院」と最初から決めてしまわないことです。自分が明らかにしたい問いを具体化したうえで、その研究に必要な専門性を持つ教員や研究環境を探していきましょう。
出願資格、提出書類、試験内容、英語、教員への事前連絡の扱いなどは研究科や年度によって異なるため、必ず最新の募集要項や研究科の公式情報を確認したうえで準備を進めることが大切です。
まとめ
慶應義塾大学の大学院で医療・ヘルスケアに関連する研究を考える場合、医学そのものを専門的に探究する方向、医療政策や医療経営を研究する方向、デジタルヘルスやAIなどのテクノロジーを活用する方向、健康行動や予防を研究する方向など、複数のアプローチがあります。
また、高齢化、介護、地域医療、ウェアラブル端末、医療サービスのシステム設計など、医療・ヘルスケアと接点を持つ研究テーマは多岐にわたります。
まずは「医療・ヘルスケアを研究したい」という大きな関心から、「誰の、どのような課題について、何を明らかにしたいのか」を具体化してみましょう。そのうえで、自分の問題意識と接点を持つ教員を探し、所属研究科の研究環境、出願資格、カリキュラム、入試制度を比較していくことが、自分に合った研究科を見つけるための重要なステップになります。
※本記事は記事作成時点の情報をもとに作成しています。入試制度、出願資格、提出書類、試験内容、カリキュラム、教員情報などは変更される場合があります。受験を検討している方は、必ず慶應義塾大学および対象研究科の公式サイト、最新の入学試験要項をご確認ください。
志樹舎
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※この記事は専門家による監修のもと執筆されています。
この記事を監修した人
小杉 樹彦(こすぎ・たつひこ)
志樹舎 創業者/博士(学術)
慶應義塾大学院修了後、2015年1月に院試専門オンライン予備校「志樹舎」を設立。
代表講師として10〜60代まで延べ5,000人以上の受験生を指導。
早慶・国公立をはじめとする難関大学院で合格率9割超の実績を持つ。
現在は大学院入試対策の専門家として、テレビ・新聞・雑誌など幅広いメディアで活動中。
ロングセラー『減点されない!勝論文』(エール出版社)ほか著書・論文多数。


