慶應大学院で経営戦略を研究するなら?

院試専門オンライン予備校「志樹舎」が運営する「慶應義塾大学大学院の院試対策ガイド」をご覧いただき、ありがとうございます。今回のテーマは「慶應大学院で経営戦略を研究するなら?」です。

企業がどのように競争優位を築き、持続的に成長していくのかという経営戦略への関心から、大学院進学を考える方もいます。慶應義塾大学の大学院で経営戦略に関連する研究を考える場合、経営・商学系の研究科だけでなく、ビジネススクールやシステム思考を重視する研究科なども比較対象になる可能性があります。

ただし、「経営戦略を学びたい」という言葉だけでは、志望研究科を決めるにはまだ範囲が広すぎます。企業の競争戦略を学術的に研究したいのか、経営者の意思決定について実践的に学びたいのか、新規事業や技術を含めた複雑な事業システムを研究したいのかによって、適した研究環境は変わります。

この記事では、慶應大学院で経営戦略に関連する研究を考える際に、どのような視点から研究科や教員を探せばよいのかを整理します。

経営戦略研究にもいくつかのアプローチがある

慶應大学院で経営戦略の研究テーマを考えるイメージ

経営戦略という分野には、企業の競争戦略や成長戦略を学術的な理論として研究する方向性もあれば、実際の企業事例から経営者の意思決定を考える方向性、技術や組織、社会環境など複数の要素を含めて事業全体を捉える方向性などがあります。

例えば、「新規事業」を研究したい場合でも、既存企業が新規事業を成功させる条件を経営学の理論から研究することもできますし、実際の企業事例をもとに経営者としてどのような判断を行うべきかを考えることもできます。

また、新しい技術を事業化する際に、技術、組織、顧客、制度などがどのように関係するのかをシステムとして研究することも考えられます。

そのため、研究科を選ぶ前に、「経営戦略の何に関心があるのか」を具体化することが重要です。競争戦略、事業戦略、新規事業、イノベーション、組織、M&A、グローバル戦略など、自分が特に深めたいテーマを整理すると、研究科や教員を探しやすくなります。

経営学の理論として体系的に研究したい場合

経営戦略論や組織論などを学術的な研究対象として深めたい場合には、商学研究科を含む経営・商学系の研究環境を確認する方法があります。

例えば、「企業はどのような条件で競争優位を構築するのか」「企業の多角化は業績にどのような影響を与えるのか」「企業間の提携はイノベーションにどのような影響を与えるのか」といった問いを設定し、先行研究や理論を踏まえながら分析していくことが考えられます。

この場合、経営戦略のフレームワークを実務で使えるようになることだけが目的ではありません。先行研究では何が明らかになっているのかを整理し、そのうえで自分が何を新しく明らかにしたいのかという研究上の問いを設定する必要があります。

将来的に博士課程への進学や研究活動まで視野に入れている場合にも、どの教員がどのような経営戦略研究を行っているのかを確認し、自分の問題意識との接点を探すことが重要です。

実務経験を踏まえて経営判断そのものを学びたい場合

慶應KBSで経営戦略と経営判断を学ぶイメージ

すでに社会人として企業や組織で働いており、実務経験を踏まえて経営戦略や経営判断について学びたい場合には、経営管理研究科(KBS)のようなビジネススクールも検討対象になります。

企業経営では、必ずしも十分な情報が揃った状態で意思決定できるとは限りません。新しい市場へ参入するのか、既存事業へ投資を続けるのか、新商品を投入するのか、事業から撤退するのかなど、限られた情報の中で判断を求められる場面があります。

KBSではケースメソッドを通じ、具体的な企業や経営上の状況について、「自分がその立場ならどのような意思決定をするのか」を考え、議論する学びがあります。経営戦略だけを単独で考えるのではなく、マーケティング、組織、人材、会計、ファイナンスなどの要素と結びつけて経営を考えることも重要になります。

特に、管理職や事業責任者、新規事業担当者などとして実務上の意思決定に関わってきた社会人にとっては、これまで経験則で行ってきた判断を経営理論の観点から捉え直す機会にもなり得ます。

競争戦略を研究したい場合は「なぜ勝つのか」を具体化する

経営戦略に関心を持つ人の中には、企業が競合他社に対してどのように優位性を構築するのかを研究したい人もいるでしょう。

しかし、「競争に勝つ企業について研究したい」というだけでは研究テーマとしては広すぎます。例えば、価格による競争なのか、ブランドによる差別化なのか、技術力なのか、顧客との関係なのか、企業が持つ経営資源なのかによって研究の焦点は異なります。

また、同じ戦略を採用していても、企業によって成果が異なることがあります。その違いを生み出す要因は何なのかを考えることで、研究上の問いへ発展させることができます。

「どの企業が強いか」を説明するだけではなく、「なぜその企業は競争優位を構築できたのか」「その優位性はどのような条件で持続するのか」と問いを深めることが、経営戦略研究では重要になります。

新規事業やイノベーションを経営戦略から考える

経営戦略研究では、既存事業の競争だけではなく、新規事業やイノベーションも重要なテーマになります。

例えば、既存企業が新規事業を立ち上げる際には、既存事業との関係、経営資源の配分、社内の意思決定、組織体制など、多くの問題が生じます。優れた事業アイデアがあったとしても、組織内部で十分な支援を得られず、事業化に至らないケースも考えられます。

このような問題について、「新規事業が成功するためには何が必要か」という大きな問いから、「既存企業における新規事業への経営資源配分は、事業化の進展にどのような影響を与えるのか」など、より具体的な問いへ絞り込むことができます。

新規事業の経験がある社会人の場合には、自分が実際に経験した意思決定や組織上の問題から、研究テーマを考えることもできるでしょう。

システム思考から事業戦略を捉え直したい場合

システム思考から経営戦略や事業戦略を考えるイメージ

技術、組織、顧客、社会制度など複数の要素が絡み合う中で事業戦略を考えたい場合には、システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)のような、システム思考を重視する研究環境との接点も考えられます。

例えば、新しいモビリティサービスを事業化する場合、優れた技術やビジネスモデルだけでは事業が成立するとは限りません。利用者、自治体、交通事業者、法制度、インフラなど、さまざまな要素が関係します。

このようなテーマでは、企業単体の競争戦略だけを見るのではなく、事業を取り巻くシステム全体を分析し、それぞれの要素がどのように関係しているのかを考えることが重要になります。

特定企業の経営戦略そのものを研究したいのか、それとも企業を含む複雑な社会・技術システムを設計し直したいのかによって、研究科選びの方向性も変わってきます。

事業ポートフォリオや撤退も経営戦略のテーマになる

経営戦略というと、新しい事業を始めたり企業を成長させたりするテーマに注目しがちですが、「何をやめるのか」という意思決定も重要な研究対象です。

企業には資金、人材、時間などの経営資源に限りがあります。そのため、すべての事業へ同じように投資することはできません。どの事業へ経営資源を集中させ、どの事業への投資を減らすのかという事業ポートフォリオの意思決定も、企業全体の戦略と関係します。

例えば、「業績が悪化した事業から企業が撤退するタイミングにはどのような要因が影響するのか」「既存事業を持つ企業はどのように新規事業へ経営資源を移すのか」といった問いも考えられます。

実務では成功事例に目が向きやすいですが、大学院で研究する場合には、失敗、撤退、事業転換なども含めて研究対象を検討すると、経営戦略をより多面的に捉えることができます。

M&Aも経営戦略の一つとして考えられる

企業が成長する方法は、自社で新しい事業を立ち上げることだけではありません。他社との提携やM&Aなどによって、新しい技術、人材、顧客基盤、事業領域を獲得することも経営戦略の一つです。

M&Aを研究テーマとする場合にも、買収価格などの財務面だけではなく、「企業はなぜM&Aを選択するのか」「買収後の組織統合が成果にどのような影響を与えるのか」「異なる企業文化をどのように統合するのか」など、さまざまな問いがあります。

また、企業の事業承継や業界再編といったテーマも、経営戦略との接点があります。特定の業界で再編が進む理由や、企業が買収・売却を選択する条件などを研究対象として考えることもできます。

M&Aに関心がある場合には、経営戦略だけでなく、組織論やファイナンスなど隣接する分野の教員についても確認すると、研究テーマをより具体化しやすくなります。

社会人は実務経験を研究上の問いに変える

社会人が経営戦略を研究する場合には、これまでの実務経験が研究テーマを考える重要な材料になります。

例えば、「新規事業を提案したが社内で承認されなかった」「競合企業が参入して市場環境が大きく変わった」「既存サービスの成長が止まった」「複数事業のどこに人員を配置するかで意見が分かれた」といった経験です。

ただし、研究計画書では、自社の問題を解決することだけを目的にするのではなく、その経験から生まれた疑問を、より一般的な研究上の問いへ変換することが重要です。

例えば、「自社の新規事業を成功させたい」から、「既存企業において新規事業への投資判断にはどのような要因が影響するのか」と問いを広げることができます。

自分の経験を単なる職務経歴として説明するのではなく、「その経験によって何を疑問に感じたのか」「大学院で何を明らかにしたいのか」までつなげることで、志望理由や研究計画にも一貫性を持たせやすくなります。

研究科より先に教員を探す方法もある

経営戦略に関連する研究は、競争戦略、組織、新規事業、イノベーション、国際経営、M&Aなど幅広いため、研究科名だけから志望先を探すと、自分のテーマに近い教員を見落とすことがあります。

まずは、自分の関心に近いキーワードを書き出してみましょう。「競争戦略」「新規事業」「イノベーション」「事業ポートフォリオ」「組織」「M&A」「アントレプレナーシップ」「グローバル戦略」などが考えられます。

そのうえで、各研究科の教員紹介や研究内容を確認し、自分の問題意識に近い研究を行っている教員を探します。候補となる教員が見つかったら、その教員の論文、研究プロジェクト、担当科目などを確認すると、研究テーマとの接点をより具体的に判断できます。

「経営戦略を学べる研究科はどこか」という探し方だけでなく、「自分が研究したい経営戦略のテーマを指導できる教員は誰か」という視点から探すことも重要です。

研究計画書では「経営戦略」を具体的な問いに変える

研究計画書を書く際には、「経営戦略について研究したい」「企業の成長戦略を研究したい」という段階から、より具体的な問いへ絞り込む必要があります。

まず、「誰・何を研究対象とするのか」を考えます。大企業なのか、中小企業なのか、スタートアップなのか、特定の業界なのかによって、研究テーマは変わります。

次に、「どのような戦略上の現象に関心があるのか」を整理します。新規参入、撤退、多角化、M&A、新規事業、イノベーションなど、研究対象となる現象を具体化します。

さらに、「何を明らかにしたいのか」という問いへ落とし込みます。例えば、「中小企業のM&A後の組織統合において、従業員の定着に影響する要因は何か」といった形まで具体化すると、必要な先行研究や研究方法も検討しやすくなります。

実務経験がある場合には、経験をそのまま研究計画書に書くのではなく、経験から生まれた問題意識を、先行研究と接続できる問いへ変換することを意識しましょう。

入試準備では研究科・プログラムごとの違いを確認する

経営戦略に関連する研究ができる可能性がある研究科でも、入試制度や求められる準備は異なります。研究科や入試区分によって、出願資格、提出書類、専門科目、英語、面接などの扱いが異なるため、必ず受験年度の募集要項を確認してください。

また、実務経験を重視するプログラムを検討する場合には、自分の職歴や実務経験が出願条件を満たしているかを確認する必要があります。一方、学術研究を中心とする研究科では、これまでの専門知識や研究計画との接続がより重要になることも考えられます。

複数の研究科で迷っている場合には、説明会や個別相談などの機会を利用し、カリキュラムだけではなく、学生がどのようなテーマに取り組んでいるのか、研究指導がどのように行われるのかまで確認すると比較しやすくなります。

まとめ

慶應義塾大学の大学院で経営戦略に関連する研究を考える場合、経営学の理論として企業の競争や成長を分析する方向、実務経験を踏まえて経営判断について学ぶ方向、システム思考から事業を取り巻く複雑な構造を研究する方向など、複数のアプローチがあります。

経営戦略という大きな言葉のまま志望研究科を決めるのではなく、競争戦略、新規事業、イノベーション、事業ポートフォリオ、M&Aなど、自分が特に関心を持つテーマを具体化していくことが重要です。

そのうえで、自分のテーマと接点を持つ教員の研究内容を確認し、カリキュラムや入試制度まで比較していきましょう。特に社会人の場合には、これまでの実務経験で感じた疑問を研究上の問いへ変換することで、大学院で経営戦略を学ぶ目的と、志望理由・研究計画をつなげやすくなります。


※本記事は記事作成時点の情報をもとに作成しています。入試制度、出願資格、提出書類、試験内容、カリキュラム、教員情報などは変更される場合があります。受験を検討している方は、必ず慶應義塾大学および対象研究科の公式サイト、最新の入学試験要項をご確認ください。

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※この記事は専門家による監修のもと執筆されています。

この記事を監修した人

小杉樹彦(志樹舎 創業者)

小杉 樹彦(こすぎ・たつひこ)
志樹舎 創業者/博士(学術)
慶應義塾大学院修了後、2015年1月に院試専門オンライン予備校「志樹舎」を設立。 代表講師として10〜60代まで延べ5,000人以上の受験生を指導。 早慶・国公立をはじめとする難関大学院で合格率9割超の実績を持つ。 現在は大学院入試対策の専門家として、テレビ・新聞・雑誌など幅広いメディアで活動中。 ロングセラー『減点されない!勝論文』(エール出版社)ほか著書・論文多数。